親知らずを抜く前に知っておくべきポイントとは

現代人の顔の輪郭はだんだんほっそりとしてきています。
硬いものを噛む機会が減り、顎(あご)の骨が十分に発達できないためです。
確かにモデルのようなシルエットで見栄えはいいかもしれませんが、一方である問題に悩まされる人が増えているようです。
その問題とは、前歯から数えて8番目にあたる親知らずの生え方です。
顎が小さく、親知らずの生えるスペースが狭くなるため、まっすぐ生えてこなかったり骨に埋まったままの人が増えています。
もしそのまま放っておくと、虫歯や歯周病の原因になったり歯並びに悪影響を与えることがありますし、一方で、生え方によっては抜歯時に後遺症のリスクを伴うこともあります。
治療の前に正しい知識を身につけておきましょう。
抜くべきか、抜かないべきか。ポイントを見定める
そもそも親知らずは抜くべきなのでしょうか?
逆に、どういう状態であれば抜かなくてもいいのでしょうか?
もちろんそのままにしておいて全く問題ないケースもあれば、一方で、放置すれば虫歯や歯周病のリスクが高まったり、歯並びに悪影響を与えるケースもあり、自分たちでの判断は難しいところ。
歯科医師の判断を分ける材料はどこにあるのでしょうか。
鏡を持って、自分の口の中を見てみましょう。
親知らずは、他の奥歯と同じようにまっすぐに生えていますか。その状態であれば、無理して抜く必要はありません。
ただ、一番奥で磨きにくいので、気をつけてしっかり歯磨きしてくださいね。
そうではなく、親知らずの頭がきれいに見えない状態の場合、斜めになっていたり、あるいは真横を向いている可能性があります。
歯が見えていなくても、歯茎の下では、手前の歯に引っかかっている場合があります。
これはレントゲンで確認できます。
斜めに生えると手前の歯との間に隙間ができ、磨き残しの原因になりやすく、虫歯や歯周病のリスクが高まります。
そのため、うまく磨けず、親知らず付近の歯ぐきの腫れや痛みを繰り返したり、親知らずやその手前の歯が虫歯になっている場合、抜歯したほうが良いでしょう。
つまり、歯磨きなどのケアさえしっかりできていれば斜めに生えていても当面の問題はありませんが、手入れができなければまっすぐ生えていたとしても抜いた方が良い、ということになります。
虫歯の有無や歯茎の腫れなど、親知らずの周囲の状態が抜くかどうかの判断材料のひとつになっています。
他にも次のような判断ポイントがあります。
【横倒しになっていてきちんと生えてこない】
親知らずは骨に埋まったまま、横倒しになっていることがあります。
その状態では、手前の歯とぶつかり、できた隙間には細菌が入りやすく炎症を引き起こす原因になります。
さらに歯は、その頭の方向に向かって生えようとするので、手前の歯を圧迫し、歯並びを悪くしてしまいます。
歯並びが悪いと見栄えが悪いだけではなく、十分な歯磨きが難しくなるため、歯周病のリスクも高まります。
こういった理由から、横倒しになった親知らずは、抜いたほうがいいでしょう。
【上下片側しか生えてこない】
親知らずが上下の片方しか生えてこないケースもあります。
この場合、片側しかない親知らずが圧迫されないためどんどん伸びてきて様々なトラブルを誘発します。
歯並びに段差が生じると磨きづらくなるし、その歯が干渉して噛み合わせに影響することがあります。
飛び出した歯が頬粘膜を傷つけて口内炎の原因にもなりえます。
トラブルが大きくならないうちに抜歯するべきでしょう。
難抜歯には後遺症のリスクも
「親知らずの抜歯は痛い」というイメージは根強く残っていますが、治療ではしっかり麻酔を施すため施術中に痛みを感じることはあまりありません。
まっすぐに生えている親知らずの場合、抜歯と縫合を合わせても1時間もかからずに終わりますし、費用も2000円前後で治療を受けることができます。
(実際には歯の位置を確認するためのレントゲン撮影や、お口の中をきれいにして、抜歯後の傷の治りを良くするための歯石除去などが必要となるので、もう少し費用がかかります。)
さて、痛みが出やすいのは治療後です。
特に注意したいのがドライソケットと呼ばれる症状。
抜歯後、歯の抜けた穴には血がたまって「かさぶた」のようになります。
うがいのしすぎなど何らかの理由でこの「かさぶた」が取れると、傷の治りが悪くなり、強い痛みが長期間にわたって続く原因になります。
「かさぶた」が取れたり、痛み止めを飲んでも痛みが変わらない場合、早急に歯科医院を受診しましょう。
一方、大部分が骨に埋まっている場合、抜歯の難易度が上がってしまいます。
抜歯の手順は、しっかり麻酔をした上で、歯ぐきを切開して歯が見える状態にし、専用の器具で歯を分割して数回に分けて取り除き、最後に切開した部位を縫い合わせます。
その際、歯科医師が気をつけているのが、神経を傷つけないことです。
歯を支えるあごの骨の中には脳から伸びる神経の束があります。
もし傷つけるようなことがあれば、触覚が鈍くなったりしびれたりする知覚麻痺が舌や唇に残ることもあります。
難しい親知らずの抜歯の手術は、信頼できる経験豊富な歯科医師に治療してもらうことをお勧めします。
では、確かな技術を持った歯科医師はどのように見つけたらいいのでしょうか。
指標のひとつになるのが日本口腔外科学会のホームページ。
日本口腔外科学会では患者に対して標準的な治療技術を提供できる口腔外科医を「専門医」として認定しています。
「専門医」の認定には学会が指定するカリキュラムを修了しなくてはならず、基準が厳しいと評判です。
認定された専門医の一覧はホームページで閲覧できます。
歯医者選びの参考にしてみるのもいいでしょう。
(日本口腔外科学会 https://www.jsoms.or.jp/public/)
最近では、抜かずに済む親知らずは残しておくことが多いようです。
親知らずを残しておけば、移植用の歯としてや、ブリッジの支えとして後々利用できることがあるからです。
しっかり管理して、残せるものは残しておくのもひとつの手でしょう。
判断基準はひとりひとりが置かれた状況によって異なります。
最終的には、かかりつけの歯科医師と相談して方針を決めてほしいと思います。