歯周病が進行してしまってからの治療方法

歯周病は歯と歯ぐきの間で歯周病菌という菌が増殖して引き起こされる歯ぐきの病気。
進行すると歯ぐきが後退して、歯が抜けてしまうこともあります。
一方、歯周病は軽度のうちに正しく対処すると元の状態に戻せる可能性が高い病気でもあります。
また、最近では進行した歯周病でも、歯を支える歯槽骨を元に戻す再生医療が行われるようになってきました。
どのような治療が行われているのか、進行度別にみていきましょう。
プロービング(歯周検査)で治療方針を決める
歯周病の治療は手順が明確です。
まず行われるのは現状把握のための検査です。
歯医者さんに行くと、虫歯のチェックとともに歯ぐきをチクチクと検査があると思います。
あれは、歯周ポケットの深さを測っています。
その検査をプロービングというのですが、その際に出血状況、歯ぐきの腫れや色合い、傷の有無状態などを確認し、歯周病の進行度を診断します。
歯周ポケットは、歯と歯ぐきの間の溝の深さのことです。
歯周病が進行するほど次第に歯槽骨(歯を支える顎の骨)が失われて、その上にある歯ぐきが下がっていきます。
そして、歯周ポケットが深くなります。
つまり、数値が大きければ大きいほど、歯周病が重症化しているということになります。
また、若年性歯周炎といって、10代~20代に多く、急速に進行する歯周病では、歯肉の炎症があまり見られないのに歯槽骨がほとんど溶けているというケースもあるため、レントゲン検査で状態を確かめる必要があります。
また、それ以外の方でも、やはりレントゲン撮影での現在の歯槽骨の状態確認が、より正確な診断には必要となります。
歯周ポケットの深さ
【P1…歯周ポケットの深さが3mm以内。軽度の歯周病】
炎症が歯ぐきを超えて、歯槽骨にまで及んだ状態です。
通常この状態では特に痛みなどの症状はありませんが、歯磨き時の出血に気が付くことがあります。
歯科医院での歯石とりや歯磨き指導を受けられれば、早期に進行を止めることができます。
【P2…歯周ポケットの深さが4~5mm。中程度の歯周病】
炎症によって歯槽骨の溶かされた量がさらに増えます。
それに伴い、ポケットの量が深くなります。
この状態になると、多少歯が揺れることもあります。
また、歯ぐきからの出血や口臭に気が付きやすくなります。
この状態に気づいたり、気になり始めた場合、早期に歯科受診をし、次のステップへ進まないように早期にご相談されることをお勧めします。
【P3…歯周ポケットの深さが6mm以上。重度の歯周病】
歯を支える歯槽骨が半分以上溶け、歯の動揺や、硬いものを噛むとき痛みや不安を覚え、しっかり噛めないといった症状が見られます。
歯周ポケット内では膿をもつことがあるため口臭も強くなり、親しい人に指摘を受けることもあるでしょう。
放置した場合、勝手に歯が抜け落ちることもあります。
治療も長期にわたり、しっかりと歯石とりの治療を受け、歯磨き指導を受ける必要があります。
また、歯石とりのみで改善が見られない場合、歯ぐきを開いて行う歯石とりの手術が必要になることがあります。
【P4…もっと重度の歯周病】
歯槽骨がほとんど溶けてしまっている状態です。
歯の支えがないのでその動揺が強く、ほとんど食べ物を噛むことができません。
残念ですが、他の歯を守るため、抜歯する場合が多いです。
ここまで進行する前に是非、歯科医院の受診をお勧めします。
さて、プロービングで測定された歯周ポケット検査の結果、レントゲン写真で確認できる歯槽骨の状態によってその後の治療方針が決まっていきます。
歯肉は炎症を起こす原因を除去することで、元の状態に回復させやすい一方で、破壊された歯槽骨は自然には回復しません。
そのため、歯槽骨が失われるP2以上に進行すると、元に戻すのが困難です。
また、歯周ポケットが10mm以上にまで進行した状態では、歯を温存して治療を続けても改善の可能性が低いばかりか、隣接した歯に悪影響を及ぼす可能性があるため抜歯を余儀なくされます。
そのため、歯周病に気が付いたらなるべく早く治療を開始することが重要です。
歯周病治療の基本は正しい歯磨きとスケーリング
歯周病の進行度に違いはあっても、歯周病の治療に欠かせないのが毎日の正しい歯磨きと、専門家によるプラークや歯石の除去です。
軽度の歯周病の場合、こうした対処で歯ぐきの状態はかなり改善されます。
歯科衛生士が行う処置には、スケーリングとルートプレーニングがあります。
スケーリングとは、スケーラーという器具で歯周ポケットのプラーク、歯石、その他の歯面沈着物を除去する治療のことです。
大げさに例えれば、工事現場で見かける削岩機のように、振動を使って歯に付着した硬い歯石を砕いていきます。
一方、ルートプレーニングでは歯周ポケット内のプラークや歯石を取り除くとともに、セメント質に嵌入した歯石や罹患したセメント質を除去し歯根面を滑らかにすることで、歯肉の上皮細胞が歯根に付着しやすくなり、歯周ポケットが小さくなりやすいという効果もあります。
スケーリングとルートプレーニングは、SRP(スケーリング・ルートプレーニング)として区別せずにまとめて行うことがあります。
歯周ポケットの深さが5mm以内の中度の歯周病に対して効果が期待できます。
歯周ポケットが深くなると外科手術へ
歯周ポケットが深い(6mm以上)状態だと、歯石除去が手指感覚に頼らざるを得ないので、SRPによってプラークや歯石を完全に除去してしまうのは難しく、進行した重度の歯周病の治療には外科手術が必要となることがあります。
外科的な治療法として、いくつか方法がありますが、歯周ポケットに対して代表的な治療が「フラップ手術」です。
フラップ手術とは、しっかりと処置部位に麻酔を行った上で、メスを使って歯ぐきを切開し、歯根を露出させてそこに着いた歯石やセメント質の汚れを目視下で除去した後、歯ぐきを閉じ、縫合する治療法です。
また、歯周ポケットの内側には、歯周病菌の内毒素で汚染され炎症を起こしている部分があるため、これも除去します。
歯周病の原因菌は、外に産生・放出する「外毒素(がいどくそ)」と、菌の内部に溜め込んでいる「内毒素(ないどくそ)」を持っています。
「内毒素」が放出されると、これを取り除くために身体の免疫細胞が更に過剰に反応するので、炎症が激しくなります。
このように、身体のほかの臓器で起こる細菌による「感染症(かんせんしょう)」と歯周病は違った様相を示します。
身体のほかの臓器で起こる「感染症」のように、抗菌剤を服用するだけでは、歯周組織内に侵入した細菌を除去することができても、歯の表面や歯周ポケット内に付着している「デンタル・プラーク」内の細菌を除去することはできません。
「デンタル・プラーク」は、形成されて3日以上を経過しなければ、ブラッシングで簡単に除去することができるので、病原性の発現を抑制することができます。
お口の中には300~400種、おおよそ600億個の細菌が棲んでいるといわれています。
これらの中から、歯周病の発生に関連のあるとされる10種類ほどの細菌を選択的に殺菌するということは不可能です。
また、さまざまな種類の抗菌剤に耐性を示す細菌の発生を避けるためにも、一時的に効果を示す抗生剤のみに頼るのではなく、自分で簡単に始めることができ、効果のあるブラッシングによる「セルフコントロール」と、定期的に歯科医院を受診して受ける「プロフェッショナルコントロール」が必要です。
フラップ手術で炎症組織がなくなると歯ぐきが引き締まり、健康なピンク色の歯ぐきへと戻っていきます。
病状が安定した後は再発を防ぐため、安定期治療(SPT)として歯のクリーニングやスケーリングなどを継続して行っていきます。
また、歯周組織にダメージを与えるような咬み合わせの干渉がある場合、咬み合わせの調整を行います。
何よりも自宅でのセルフケアを徹底する必要があります。
重症化した歯周病には再生医療という道もある
歯周病が重度の場合、フラップ手術によって歯ぐきの炎症を取り除くことはできますが、歯槽骨が失われているため歯ぐきが下がり、結果歯が長くなったように見えてしまいます。
歯根の露出は審美的な観点からだけではなく、知覚過敏を起こしやすくなるなど機能面でも問題になることがあります。
そのため近年では、骨が失わた重度の歯周病において、歯周組織を再生療法で回復させる治療が行われるようになってきています。
現在よく行われている再生治療は「GTR法」と「エムドゲイン法」の2種類。
ともに歯ぐきや歯槽骨を以前の状態に近い所まで回復させることを目指しています。
【GTR法(組織再生療法)】
失われた歯槽骨は再生しないと前述しましたが、本来、骨にも自然治癒する能力があります。
そのため、歯周ポケット内の洗浄を行い、歯周病によってダメージを受けた組織を取り除けば、歯ぐきだけではなく歯槽骨も同時に再生していきます。
ところが、このとき歯肉上皮の再生が骨の再生よりも早いため、上皮細胞が真っ先に傷口を覆い、骨の再生を妨げてしまうのです。
簡単に言うと、歯槽骨ができて欲しいスペースに、それができるよりも先に歯ぐきが入り込んで、歯槽骨が再生するスペースが取られてしまい、結果歯槽骨が十分に再生できない、ということです。
GTR法ではこれを防ぐため、フラップ手術の際に、歯ぐきを切開したときに人工膜(メンブレン)を挿入して、歯ぐきの陥入を防ぎ、歯根膜(歯槽骨と歯根との間にある薄い膜)や歯槽骨が再生するスペースを保護します。
歯槽骨の成長を誘導することで歯ぐきを回復させます。
再生能力には個人差がありますが、1か月におよそ1mm程度の速さで歯周組織が回復していきます。
【エムドゲイン法】
エムドゲイン法は、歯周病によって溶かされた歯槽骨を再生させる薬です。
フラップ手術の際、歯の表面の汚れを取り、歯根を滑らかにした後、骨の成長を助けるエムドゲイン・ゲルと呼ばれる薬剤をセメント質の表面に塗布することによって、骨を再生させます。
エムドゲインは、ブタの歯ができる時のタンパク質(エナメルタンパク)で出来ています。
骨を再生させるスピードが速いため、余分なものが入り込む前に、骨を再生させます。
しかし、残念ながら万能ではなく、エムドゲイン再生療法を行ったからといって、すべての骨が再生できるわけではありません。
骨が溶けてしまった部分にエムドゲインを入れて、50~90%の骨が再生できます。
再生出来る量は人によって異なります。
注目を集めつつある原因菌の除菌治療
早い段階で処置をすれば健康な歯ぐきを取り戻せる歯周病ですが、多くの場合、はっきりとした症状が出ないまま進行し、気が付いたときには重症化しやすいという特徴があります。
そこで近年、歯周病の原因菌を除菌して症状を予防したり、重症化を防いだりする治療方法が注目を集めています。
3DS(デンタル・ドラッグ・デリバリー・システム)は薬剤を使って歯の表面にいる虫歯菌や歯周病の原因菌を殺菌する方法。
歯の表面を磨いた後、専用のマウスピースに除菌作用のある薬剤を注入して、5分間装着します。
3DSと抗生物質を組み合わせた治療で、歯周ポケットが浅くなったり、出血が抑えられたりといった効果が認められています。
治療を受けられる歯科医院が全国に広がりつつあります。
歯周病が進行しやすいインプラントを入れた人や、一度歯周病治療を受けた人などは、歯周病の予防・再発に特に注意しなければいけません。
そのような人にとって、利用価値が高い治療方法だといえるでしょう。
歯周病には、動脈硬化、糖尿病、腎臓病、肝臓病など、全身のさまざまな病気との関連性が指摘されています。
歯周病の原因菌が歯ぐきから血液に染み出し、分泌される内毒素が血流に乗って全身へ運ばれるためです。
これらの疾患のリスクを下げるために、そして何よりも大切な歯を失わないためにも、歯周病はしっかりと治療する必要があるのです。